大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)992号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

所論は、原判決につき違憲をいうが、審理不尽ないし判断遺脱を前提として斯く論ずるものであるところ、原判決が第一審判決理由を引用すること自体は法律の許容するところであつて何らの違法もなく、また、原判文上に所論「第二決議」という文字が一ケ所も記載されていないことをもつて、原判決が右「第二決議」についての判断を脱落したという論旨は、原判決が第一審判決の事実摘示および理由説示を引用するとの判示を正解しないことによるものであつて、原判決に所論違法はない。従つて、違憲の論旨は、すでに前提を欠き採るに足らない。

同第二点について。

所論前半において、原判決が証拠によらず法理に反してなされたことを論ずる部分は、原判文を正解しないことに基づく独自の所見を述べ、ないしは、原審の専権事項について異見を述べるにすぎないから採用できない。

次いで論旨は、所論第一決議の無効確認を求める本訴請求について原審が訴の利益のない旨を判断した点に関して、審理不尽をいうが、原判決は、この点の判断として、昭和二九年七月一〇日の被上告会社の臨時株主総会における第四号議案定款第五条中一六五〇万株を六〇〇〇万株に改める決議につき上告人が昭和二九年一二月一三日東京地方裁判所に提起した無効確認の訴は第一、二審とも上告人敗訴の判決があり、昭和三七年三月八日最高裁判所の上告棄却の判決言渡により確定したことを判示したうえで、本件の第一決議は、単に昭和二九年七月一〇日の前示臨時株主総会における第四号議案に関する決議の内容を再確認するだけのものであるから、右決議につき、すでに無効を主張しえなくなつた上告人としては本件第一決議についてもその効力を争う実益を失うにいたつたものというべく、本件第一決議の無効確認を求める訴は、すでにこの点で理由がないとして、上告人の請求を棄却したのであつて、この判断は首肯できて、所論違法はないから、論旨は採用できない。その余の所論は、ひつきよう、原審の専権たる事実認定を非難するか、すでに前示最高裁判所昭和三七年三月八日言渡の判決によつて確定された判断について異見を述べるにすぎず、採用の限りでない。

同論点中、「二、第二決議の無効確認の件について」と題する部分について。

所論は、本件第二決議が商法二八〇条ノ二第二項の規定に違背し無効であることを論じて原判決の誤りをいうが、本件第二決議に基づく新株がすでに発行済である事実を確定したうえで、新株がすでに発行された後は、新株発行無効の訴を提起しないかぎり当該新株の発行を無効とするに由なく、新株発行に関する決議無効確認の訴はもはや確認の利益を欠き提起できないと解すべきである旨判示して、この点に関する上告人の請求を棄却すべきものとした原判決(第一審判決理由引用)の判断は正当であり、決議の無効を云々する所論は、ひつきよう、判決に影響を及ぼさないことをいうに帰し採用の限りでない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例